放置してもつらいだけ…増える「胃酸」不調に注意を

放置してもつらいだけ…増える「胃酸」不調に注意を

 

 

【100歳プロジェクト】

 

高齢者から若者まで、あらゆる年齢層で、日本人の胃酸の分泌量が年々増え続けているという。衛生状態の改善により、胃の粘膜を萎縮させて胃酸分泌を低下させるピロリ菌の感染者が減ったことなどが要因だが、過剰な胃酸分泌は体にさまざまな不調を引き起こし、QOL(生活の質)を落とすことにもつながる。専門家は「気になる場合は迷わず受診を」と呼びかけている。(山本雅人)

 

■胸やけ、痛み…

 

現在の日本人について「1億総胃酸分泌過多時代」と指摘するのは、兵庫医科大の三輪洋人・特別招聘(しょうへい)教授(消化器内科学)。昭和40年代後半から平成初期までの約20年間で、日本人の胃酸の分泌量がおよそ1・5倍程度増となっているとの先行研究データに、三輪氏は着目。独自に平成20年ごろの測定データと比較したところ、「上昇は止まったものの、高止まりのままだった」という。

 

胃酸を含む胃液は、胃の運動と連動し、食物を分解・消化する働きをする。胃酸の分泌は生命活動にとって重要だが、過剰に分泌されれば悪影響を及ぼすという。

 

三輪氏のグループなどは平成19年、平均27歳の男女計27人に対し、空腹状態のときに、胃酸と同じ濃度の塩酸を鼻から胃に管を使って注入し、何か症状を引き起こすのかどうかを調べる実験を行った。比較のため、別の日には同様の方法で真水を注入した。また、実験に際しては、心理的な影響を排除するため、どちらの液体であるかは伝えなかった。

 

その結果、塩酸を注入した場合には胃もたれやおなかの張り、胸やけ、胃の痛みなどさまざまな症状が顕著で、特に胃もたれやおなかの張りの症状は強めだった。このため、三輪氏は「胃酸が不調の原因となることを裏付けた」と説明する。

 

過剰な胃酸の分泌が引き起こす疾患として、胃酸が食道に逆流して胸やけなどを起こす逆流性食道炎が知られる。三輪氏によると「高齢者は食道と胃のつなぎ目にある筋肉が弱り緩くなっており、胃酸の逆流が起こりやすくなる」と指摘する。

 

■食の欧米化も

 

胃がんや胃潰瘍のリスクを高めるピロリ菌は、井戸水の使用が減るなど衛生状態が改善され、除菌治療もできるようになったことで感染者が減った。その結果、かつては部位別のがん死亡率(年齢調整済み)でトップだった「胃がん」が、「肺がん」や「大腸がん」を下回るようになった。三輪氏は「ピロリ菌感染者の減少が日本人の寿命延伸に大きく貢献したのは間違いない」という。

 

その一方、胃酸分泌が増えたことで、「逆流性食道炎までには至らなくても、さまざまな不調を起こすことにもなった」とし、胸やけや胃もたれ、痛みなど「高齢者にとって毎日を幸福に過ごせなくなるようなつらい症状が多く、〝健康長寿〟とはいえなくなる」とも。

 

三輪氏によると、胃酸の過剰な分泌は、高脂肪食の摂取など食の欧米化も影響しているという。前出の胃酸分泌量の推移のデータでは、ピロリ菌感染者同士の比較でも、過去に比べて分泌が増えているからだ。三輪氏は「動物性脂肪などは胃酸の分泌を促す刺激となる」と解説する。

 

では、不調を改善するにはどうしたらよいのか。三輪氏は「毎日、できるだけ同じ時間に起床、就寝、食事をするよう心掛けてほしい」と生活リズムを整えるようにとアドバイスする。というのも、胃は心臓などと同様、自分の意思でコントロールできず、自律神経が働きをつかさどる。生活リズムの乱れは自律神経の働きにも影響するため、規則的な習慣を心掛けることが大切になる。とりわけ高齢者は自律神経の活動が低下しやすいので、こうした対策が有効だという。

 

それでも改善しない場合は「胃の不調は放置してもつらいだけなので、迷わず専門医を受診してほしい」と話している。