インフルエンザワクチン足りず 接種できない人続出 メーカーは「増産無理」

インフルエンザワクチン足りず 接種できない人続出 メーカーは「増産無理」

 

 例年11~2月ごろに流行する季節性インフルエンザのワクチンが全国で品薄になり、接種したくてもできない人が出ている。新型コロナウイルスとの同時流行の懸念などから希望者が殺到しているためだ。ワクチンの製造には半年ほどかかるため今シーズンは新たな増産が見込めない。現在、流行の兆しはみられないが例年1、2月にピークが訪れるため油断できない状況は続く。

 

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 毎年平均1万人にワクチンを接種している福岡市早良区のフカガワクリニックは、12月11日に予約の受け付けを終了した。例年12月上旬には接種のピークも過ぎているが、「地元の病院にもうワクチンが無いと言われた」「子どもが2回目の接種を受けられない」といった問い合わせが今も続いているという。深川康裕院長(63)は「卸会社にワクチンの追加を依頼したが断られた」と話す。

 

 新型コロナとの同時流行に備え、国は2020年度、インフルエンザワクチンの接種は高齢者らを優先するよう呼びかけ、福岡県などは65歳以上の接種を無料化した。福岡市医師会が市内の医療機関を対象にした10月末時点の調査によると、885機関のうち約7割が「昨年度より接種者が多い」とし、557機関のうち約6割が「年内にワクチンの在庫が無くなる」と回答。12月2日の医師会の記者会見で平田泰彦会長は「現実的にワクチンは無いと思う。高齢者の接種を先にして無料化したため殺到したのが原因」と語った。

 

 厚生労働省によると20年度、国内で出荷されたワクチンは約6600万人分で15年度以降最も多い。ワクチンを製造する「KMバイオロジクス」(熊本市)も同省からの要請で19年度より2割増産し、11月までに全て出荷した。準備や製造には半年ほどかかるため、20年度の再製造については「現実的ではない」とする。厚労省によると他のメーカーも同様で、担当者は「今後の増産は無い」と明言した。

 

 今後もワクチン不足は起こりうるのか。ワクチンの有効期限は1年しかなく、医療機関で余っても翌シーズンまで残せないため、メーカーに返品されて廃棄される。このため、メーカーも多めに製造するのは容易ではない。同社は21年度の計画について「未定」とした上で「需要の予測ができないため大幅な増産は難しい」と打ち明けた。

 

 もっとも、今のところ、インフルエンザが流行する兆しはみられない。厚労省によると、今期の観測が始まった8月31日から12月13日までの全国約5000の医療機関から報告された感染者はわずか379人。前年の同期には22万3668人いた。ただ、過去5年は年末から翌年2月にかけて流行のピークを迎えているため安心は禁物だ。

 

 感染症に詳しい東京医大の濱田篤郎教授は「やや流行が始まっている東南アジアから入ってくる可能性はある」と指摘。その上で「そもそもワクチンを打っても6、7割ほどしか発症は抑えられない。コロナ同様にマスク、手洗い、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の予防対策が引き続き大切だ」と呼びかける。

 

 ◇流行が抑えられている「三つの理由」

 

 2020年はなぜインフルエンザが流行していないのか。東京医大の濱田篤郎教授は「三つの理由」を挙げる。一つ目は新型コロナウイルスの影響で国際的な人の移動が制限されたことだ。例年は、7、8月が冬の南半球でインフルエンザが流行し、9月ごろにウイルスを持った人が北半球の地域に持ち込むため日本などで11月以降流行が起きていた。

 

 また、マスク着用や手洗いの徹底、「3密」を避けるなどのコロナ対策が「コロナ同様に飛沫(ひまつ)感染するインフルエンザの予防につながった可能性がある」と分析。最後に、あるウイルスの流行が他の種類のウイルスの流行を妨げる「ウイルス干渉」の可能性を示す。インフルエンザと同じように呼吸器に感染する新型コロナが流行しているため、インフルエンザウイルスの侵入が抑えられていると考えられるという。

 

 濱田教授は今後、新型コロナのワクチン接種が始まり感染力が衰えてくると、インフルエンザの流行が復活する可能性があると指摘。「同時流行はワクチンが完成した後の方が起こるかもしれない」と懸念する。【田崎春菜】