在宅勤務で「常にイヤホン」30代男性の“難聴リスク”

在宅勤務で「常にイヤホン」30代男性の“難聴リスク”

 

 瀬谷さん(30代男性、仮名)はIT企業のシステムエンジニアで、チームリーダーも務めています。新型コロナウイルスの感染拡大以降、自宅でリモートワーク(在宅勤務)をしていますが、「オンラインの打ち合わせが増えて、イヤホンを使っているせいか、最近耳に痛みを感じます」といいます。相談を受けた産業医の佐藤乃理子さんが対応策を紹介します。【毎日新聞経済プレミア】

 

 

 ◇業務中は常にイヤホン

 

 現在、会社は会議などをすべてオンラインで行っています。瀬谷さんは、会議以外でもチームのメンバーと打ち合わせをすることが多くあります。「業務中は常にイヤホンをしているような状況です。耳の痛みも気になりますが、その痛みが聴力の低下につながるのではないかと不安です」といいます。

 

 自宅では寝室を仕事部屋としていますが、小さい子供がいて、家の中で騒いでいたりすると、打ち合わせ中にイヤホンの音量を大きくすることがあります。子供が静かになり、次の打ち合わせが始まったときに、音量の大きさに驚くことがあるそうです。

 

 大音量で音楽などを聴き続けることで「イヤホン(ヘッドホン)難聴」が起こる場合があります。世界保健機関(WHO)は、スマートフォンなどの普及で、特に若者たちがイヤホン難聴のリスクにさらされていると警告しています。

 

 ◇難聴になるリスクは

 

 イヤホン難聴は、耳の奥にある、音を伝える役割を持つ有毛細胞が大きな音で徐々に壊れることで起こります。耳は、100デシベル程度(窓を開けた地下鉄車内やヘアドライヤーの音)の音量に1日15分、85デシベル程度(街頭の騒音)に1日8時間ほどさらされると難聴のリスクが高まるといわれます。

 

 じわじわと進行するため初期症状を自覚しにくいのですが、耳が詰まった感じがする耳閉感や耳鳴りを伴うことがあります。聴力はいったん失うと回復が難しいといわれます。そのため予防対策が重要です。

 

 瀬谷さんが耳に感じている痛みはイヤホンとの接触によって生じているようで、難聴の直接的な原因になることはないでしょう。イヤホンの適切な音量設定は60デシベル程度といわれ、通常、それくらいの音量で短時間の使用であれば、難聴になる危険性は高くありません。しかし、イヤホンの音量を大きくしていたり、イヤホンの使用が長時間にわたったりする場合、難聴になるリスクが全くないとはいえません。耳の痛みへの対策も必要です。

 

 ◇耳を休ませる時間を

 

 痛みへの対策としては、耳を覆うヘッドホンや首にかけるネックスピーカー、耳を塞がない骨伝導イヤホンに切り替えることが考えられます。周囲の音が気になる場合は、ノイズキャンセリング機能がついたもの使い、適切な音量以下にするとよいでしょう。

 

 難聴を予防するためには、イヤホンやヘッドホンなどを使う時間を短くする必要があります。最も理想的なのは、イヤホンなどを使わずに打ち合わせなどができることですが、瀬谷さんは自宅の状況を考えると、それは難しいといいます。

 

 そこで、耳を休ませる時間を設けるためにも、チームのメンバーに協力を得ることを提案しました。業務中は断続的に仕事に集中する時間を設け、緊急の用事以外は連絡をしないといったルールを決めておくのも一案です。

 

 また、耳に違和感があったり、聴力が落ちていないかどうか気になったりするのであれば、耳鼻科を受診することを勧めました。聴力検査を受けた上で、治療が必要かどうかを判断してもらうことが大切です。

 

 瀬谷さんは「まず耳鼻科に行って、今の状態を確認してもらうことにします。仕事中はできるだけイヤホンを使う時間を減らすために、メンバーの協力を得られる対策を考えてみます」と言っていました。