花粉症による鼻症状への治療が、目の症状にも効果があるってホント?

花粉症による鼻症状への治療が、目の症状にも効果があるってホント?

 

スギ花粉症の本格飛散期が続いており、4月からも花粉は多く飛散するようです[1]。

 

そして、『今年は、鼻よりも眼の症状がひどいです』という話をされる患者さんが多いように感じています。もちろん今年のスギ花粉が、特に眼に強く症状を起こしやすい…のではないでしょう。

 

その理由として、コロナ禍でマスクを着けるようになったことが考えられます。

というのも、マスクを着けると花粉症による症状は眼よりも鼻の症状がより軽くなるという研究結果があり[2]、残った眼の症状が気になりやすくなったのではないかと考えられるからです。

 

もちろん眼の症状に対しては、アレルギー症状を抑える目薬(点眼液)が有効です。しかし、眼の症状に対するステロイド点眼液は自覚症状なく眼圧があがることがあり、気軽には使用することが難しい薬です[3]。

 

ですから基本的に、花粉症による眼の症状に対しては、そういった心配のない抗ヒスタミン薬という薬効成分が含まれた点眼薬が広く使用されています[4]。しかし抗ヒスタミン薬点眼液は、ステロイド点眼液ほどには効果は高くありません。

 

ですので、つらい目の症状に対して、他になにか方法がないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、眼の症状を抑える点眼液以外の意外かもしれない方法を、簡単に解説してみたいと思います。

 

 

鼻の治療が、眼にも効く?

 

たとえば、保険適用のあるフルチカゾンフランカルボン酸エステル(商品名アラミスト)という鼻にスプレーするステロイド薬(鼻噴霧ステロイド薬)を、抗ヒスタミン薬の飲み薬(ロラタジン:商品名クラリチン)やプラセボと比較した研究があります。

 

すると、鼻噴霧ステロイド薬は、プラセボよりも、さらには抗ヒスタミン薬の内服薬よりも、眼の症状を軽くしたという結果でした[5]。

なかなか有望ですね。

 

では、なぜ鼻噴霧ステロイド薬が眼にも有効なのでしょうか?

 

なぜ、鼻に使用した薬が目の症状を楽にするのでしょうか?

 

たとえば鼻にスプレーしたステロイド薬が、体全体に行き渡り、その一部が眼に効果があるとは考えられるでしょうか?

 

最近は、アレルギーを起こしているそれぞれの箇所にステロイドを使うという方法を用いて、でできるだけ全身の副作用が起こりにくいように薬が改良されています。

 

たとえば鼻噴霧ステロイド薬の使用量は、スプレー1回あたり25μg~100μg程度です。

 

たとえば、つよい喘息発作を起こして内服するプレドニゾロンというステロイドはその500~1000倍程度の量ですので、鼻噴霧ステロイドの量はとても少ないといえます(使用するステロイドの性質によって量を横並びで比べることは難しいのですが、それでも全く異なる量といえます)。

 

たしかに、昔使われていた鼻噴霧ステロイド薬は、使用された薬物がどれくらい全身に行き渡るかをみる指標(バイオアベイラビリティといいます)の高い製品があり、いくらかの全身的な副作用をも考える場合もありました。

 

しかし、現在保険で使用される最近の鼻噴霧ステロイド薬は、バイオアベイラビリティが1%未満ととても低く、眼圧が上がるなどの副作用はほとんど起こらなくなっています [6]。

 

すなわち、鼻にスプレーしたステロイド薬が全身に行き渡り、眼の症状を楽にしたとは考えにくいということです。

 

 

現在考えられているメカニズムが、『鼻から眼への神経反射』です

 

鼻噴霧ステロイド薬が目のアレルギー症状を軽くするメカニズムとして考えられているのが『鼻から目への神経反射』です。すなわち、鼻へのステロイド噴霧により涙から検出されるアレルギーによる炎症を起こす物質が減ることがわかっており、その効果が目の症状も良くするという考え方です[7]。

 

保険で使用される鼻噴霧ステロイド薬は、体全体だけでなく眼への副作用が少なくしつつ、花粉症による鼻症状だけでなく眼の症状も軽くするといえます。

まだまだ花粉症のシーズンは続きます。

ご心配な場合は、かかりつけ医や薬剤師にご相談くださいね。

 

 

【参考文献】

[1]週間花粉情報 週末~来週も 東京など「非常に多い」続出 4月もまだ万全な対策を

[2]The journal of allergy and clinical immunology. In practice 2020; 8:3590-3.

[3]あなたの点眼液、ステロイドではないですか?まずは確認してみましょう

[4]たくさん目薬を使えば、花粉症による目の症状は軽くなりますか?

[5]Clinical & Experimental Allergy 2004; 34:952-7.

[6]Clinical ophthalmology (Auckland, N.Z.) 2016; 10:1079-82.

[7]Clinical & Experimental Allergy 2004; 34:952-7.

 

堀向健太

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。日本小児科学会専門医・指導医。日本アレルギー学会専門医/指導医。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。2016年「小児アレルギー科医の備忘録」を開設。Twitter(フォロワー9.7万人)、Instagram(フォロワー2.2万人)。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞