「粒子線治療」の保険適用が4月から拡大 患者負担は3割に増えるも、より身近に

「粒子線治療」の保険適用が4月から拡大 患者負担は3割に増えるも、より身近に

 

 これまで前立腺がんや小児がんなどごく一部のがんの治療にしか認められていなかった粒子線治療の保険適用がこの4月1日から拡大されている。

 

 粒子線には陽子線と重粒子線があり、これまでに保険適用された一部のがんを除き、保険が利かない自由診療では陽子線治療約270万円、重粒子線治療では約315万円と高額の医療費が患者負担になっていた。

 

■3割負担で高額療養制度も利用可

 

 これが4月1日からの保険適用で患者の負担は1割から3割になる。さらに高額療養費制度を利用すれば(収入にもよるが)患者の実質負担額は8万円から15万円で済む。

 

 新たに保険診療が適用される疾患は、陽子線と重粒子線で①長径4センチ以上の肝細胞がん②肝内胆管がん③局所進行性膵がん④術後局所再発した大腸がん。加えて重粒子線の⑤局所進行性子宮頚部腺がんの5疾患。

 

 粒子線治療についてサイエンスライターの平林茂氏が説明する。

 

「同じ放射線でもⅩ線の3~4倍の強いエネルギー量を集中して腫瘍部分に照射するため、局所制御率が非常に高く周辺の他臓器が受ける負担を減らす。前立腺がんでは男性機能を含め周辺臓器が温存され患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)が保たれることが特徴です」

 

 2018年に放射線医学総合研究所(現QST病院)で前立腺がんの重粒子線治療を受けたA氏(62歳・青森県)がいう。

 

「治療は火曜日から金曜日の4日間で、その後月曜日まで3日間は休み。治療時間は2分間ほどで体調の変化もまったくなかった。私はホテルからの通院でしたが、通院治療の患者さんもいましたね」

 

 被膜外浸潤を伴う高リスクの前立腺がんで、2010年にQST病院で重粒子線治療を受けたB氏(当時69歳・新潟県)に電話を入れると、元気な声が返ってきた。

 

「今年で80歳になりました。退院後全くこれまで健康状態に異常はありません。検査通院も3年前に先生から『もう大丈夫』とお墨付きをもらってからは行っていません」

 

■手術が不可能な患者にも治療できる

 

 重粒子線治療は先進医療として国内で承認されて20年になるが、重粒子線治療の開始から最先端を走ってきたQST病院国際治療研究センター長の辻比呂志氏が語る。

 

「重粒子線治療は手術が不可能な患者に治療できるケースが多く、加えて手術ができる患者さんについて疾患によっては外科手術と同等の生存率が得られる。前立腺がんで重粒子治療を受けた患者の寛解は10年ですが、他のほとんどのがんは術後5年元気だったら寛解といっていいでしょう。今後は先端治療として実施されている肺がん、食道がん、腎臓がん、子宮がんなども保険適用になるべきと考えます」

 

 粒子線治療がより身近に、そして期待が広がる治療法になる。

 

(ジャーナリスト・木野活明)