【独自】「アニサキス」急増なぜ?食中毒相次ぐ…クジラ数要因か “殺虫装置”開発も

【独自】「アニサキス」急増なぜ?食中毒相次ぐ…クジラ数要因か “殺虫装置”開発も

 

 寄生虫「アニサキス」による食中毒が相次いでいます。魚介類に寄生するため、鮮魚店などでは警戒を強めています。なぜ増えてきたのか、独自取材しました。

 

■「胃が痛く本当に動けない」

 

 アニサキスで食中毒になったタマさん:「5月の頭ごろだったと思うんですけど、サバを食べて当たった」

 

 こう話すのは、アニサキスで食中毒を起こした男性。自分で釣ったサバを酢締めにし、少しずつ食べていたこところ、アニサキスがいたことに気付かずに、食中毒になったといいます。

 

 タマさん:「おなかの下というよりかは、胃の辺りがずっと痛くて。嘔吐(おうと)した後も、ずっと継続して痛いといった感じ。本当に動けないって感じですね」

 

 厚生労働省が8日に発表したアニサキスで食中毒を引き起こした患者の数です。ここ数年で急増し、今年は5カ月余りで、10年前(2013年)の患者数を大きく上回っています。

 

 青魚、特にサバやイカなどに寄生する、長さおよそ2センチから3センチのアニサキスの幼虫。寄生していることに気付かずに、青魚などを生で食べると、食中毒を引き起こします。

 

■「腸が破れて緊急手術も」

 

 もし、アニサキスを魚と一緒に食べてしまった場合、専門医は、薬での治療は難しいと話します。

 

 たまプラーザ南口胃腸内科クリニック・平島徹朗院長:「痛みを取るためには、胃カメラで物理的にアニサキスを除去するしか、今のところ方法はない。ただ、小腸や大腸は粘膜がめちゃくちゃ薄い。だから、アニサキスが食い付くと、腸が破れることがある。腸に穴が開くと、緊急手術をしないといけないので、大事になってしまうこともある」

 

■「半身で6匹」目視で駆除

 

 急増するアニサキスによる被害。今、魚に何が起きているのでしょうか?

 

 川崎市にある鮮魚店では、様々なアニサキス対策を行っています。鮮魚店も、異変に気付いていました。

 

 二子新地鮮魚店 魚市・薦岡慶祐営業統括部長:「10年くらい前から比べると、すごく増えたなと思う。本当に多い時は、半身で5から6匹出てくる時もある」

 

 生の魚を提供するために、まずしなければ、ならないこと、それは“目視”です。

 

 店では、魚のプロが手作業で、徹底的に駆除します。この日仕入れたばかりの、生のサバをさばいていると、やはり、アニサキスが潜んでいました。

 

 薦岡慶祐営業統括部長:「(身の)中にいるのは、僕はちょっと表面削って、身の色が変わっているところを探す。こうやって削っていくと、中に(アニサキスが)出てくる。こういうのだと、普通の人だと、見落としちゃうんじゃないかなと思う」

 

 アニサキスが1匹見つかると、身をここまでほじくり返し、アニサキスを取り除きます。店ではこの後、さばいた魚を総菜用に加熱調理を行いました。安全管理は、徹底しています。

 

■“冷凍にも耐える”生命力

 

 厚生労働省は、生の魚介類を扱う業者に対し、サバ、イワシ、イカなどアニサキスが寄生する魚は、「目視・冷凍・加熱」の処置を推奨しています。

 

 冷凍は、マイナス20度で24時間以上かけないと、アニサキスは完全に死滅しないといいます。

 

 薦岡慶祐営業統括部長:「しめサバとかに関しては、アニサキスを目視で取って。それをさらに一度、マイナス50度以下の冷凍庫に、一応48時間ぐらいは冷凍して。間違いなく、お客さんに迷惑がかからないよう対応はしています」

 

 日本の食文化の代表ともいえる「刺し身」。しかし、専門家は、次のように話します。

 

 熊本大学 産業ナノマテリアル研究所・浪平隆男准教授:「実際、1998年にお肉は全冷凍しなさいというふうに決まった。その時、魚もというふうな話になったらしいが、やはり日本の食文化をダメにしてしまう可能性があるので、見送られた。ただし、このままアニサキスの食中毒が増えていくと、ひょっとしたら、言っていられない状況に今、なりかねない分岐点にいるような状態。日本の冷凍か生かというところはですね」

 

 世界では、ほとんどの国で、魚を一度冷凍することが義務付けられているといいます。

 

 生で魚を食べる文化のある日本などが、わずかに例外となっているのです。

 

■クジラが増え…アニサキスも急増

 

 番組の調べでは今年、9日までにアニサキス食中毒の患者は、ほぼ全国で確認されています。アニサキスが増えている原因について、専門家は、次のように話します。

 

 浪平隆男准教授:「アニサキスが寄生虫で、クジラが終宿主なんですね。要は、アニサキスはクジラに行くために、頑張ってるんですけど。クジラが圧倒的に増えている、数が」

 

 まず、クジラの餌(えさ)となる魚がアニサキスの卵を食べ、その魚の体内で、アニサキスは幼虫になります。

 

 そして、その魚を、クジラが餌として捕食。アニサキスはクジラの体内で卵を産み、クジラから排出された卵を、また魚が食べるという連鎖が起きています。

 

■寄生“サバ・イカ以外にも”

 

 専門家は、クジラの絶対数が増えたことが、アニサキスの数が増えている要因ではと分析します。

 

 浪平隆男准教授:「水産業界の方が言うには、(寄生している)魚種が拡大している。今、海に住んでいるもので、アニサキスがいないものなんていないのではというぐらいまで、言われるようになっている」

 

■“一瞬で死滅”撃退法を開発

 

 食中毒を引き起こし、激しい腹痛をもたらすアニサキス。生きて人間の体内に取り付いてしまうと、打つ手なしの状況です。

 

 ただ、死んでしまえば、悪さをすることはありません。どうすれば、魚の鮮度を保ちながら、すべてのアニサキスを死滅させることができるのか。熊本大学が、画期的な装置を開発しました。

 

 それが、“アニサキス殺虫装置”です。

 

 仕組みは、1万5000ボルトという雷レベルの電圧を、100万分の1秒という一瞬だけ流すというもの。これでアニサキスは、99.9%死んでしまいます。

 

 すでに、プロトタイプが去年から実用されていて、2025年以降、量産販売の準備に入る見通しです。

 

 浪平隆男准教授:「こういう技術で、文化を絶やすのではなく、安全なものを提供できる技術に切り替えようという機運も今、高まっていますね」

 

(「グッド!モーニング」2022年6月10日放送分より)

 

テレビ朝日