「顎関節症を放置すると口が開かなくなるリスクあり」原因・治療法・対策を歯科医師が解説
口を開けたとき、顎のあたりでカクカクと音がしたり、大きな口を開けづらくなったりする症状がみられたら「顎関節症」かもしれません。決して珍しい疾患ではありませんが、放置しておくと、意外なリスクになることもあるそうです。そこで今回は、顎関節症の治療と対策について、「六町もやい歯科口腔外科」の北村先生に解説していただきました。
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顎関節症は4種類にわけられる
編集部:
まず、顎関節症について教えてください。
北村先生:
簡単に言えば、顎の関節や顎を動かす筋肉などになんらかの異常をきたすのが顎関節症という疾患です。口が開けづらくなったり、口を開けたときに痛みが生じたりする症状が現れます。さらに細かく言えば、顎の「筋肉」、「靭帯」、「軟骨・関節」、「骨」のうち、どこに原因があるのかによっても症状が変わってきます。
編集部:
原因の見分け方はあるのでしょうか?
北村先生:
自分で判断するのは困難なので、歯科医院で診断してもらってください。とくに「顎の関節に痛みがある」、「口が開けづらい」、「口を開けるときに顎の関節あたりで音が鳴る」といった自覚症状がある場合は、早めに受診することを推奨します。
編集部:
口や顎の周りで違和感があったら、受診した方がいいのですね。
北村先生:
はい。口を開けるとき、顎の周辺で痛みや違和感を覚えても放置してしまう人も少なくありません。ところが、何もしないでいると痛みが出続けたり、やがて硬いものや大きなものが食べられなくなったりと、日常生活にも悪影響が出てきます。そのため、「いつもと違う」と感じたら、必ず歯科医院を受診するようにしましょう。
顎関節症を放置すると口が開かなくなるリスクも
編集部:
顎関節症は自然治癒するのでしょうか?
北村先生:
どこに原因があるかによっても異なります。例えば、顎の筋肉や靭帯に異常がある場合は、時間が経てば治る可能性はあります。しかし、先ほどお話ししたように、顎のどこに原因があるのか、自分で見分けることは困難です。そのため、くれぐれも自己判断せずに医師の診断のもと、原因を明らかにしてもらってください。
編集部:
顎関節症を放置すると、どのようなリスクがあるのですか?
北村先生:
これもどこに原因があるかによって変わります。靭帯に異常がある場合は「口を開けると痛いから」と、しばらく開けずにいると症状が進んでしまい、やがて口が開かなくなってしまうリスクがあります。また、軟骨・関節に異常がある場合も同様で、口を開けるために手術が必要になることもあります。骨に異常がある場合は、そのまま放置すると骨自体が変形して、口が開かなくなってしまうリスクがあります。そのため、顎関節症は放置するととても危険なのです。
編集部:
そもそも、顎関節症が発症する原因はなんですか?
北村先生:
多くの場合、顎関節症は「生活習慣の積み重ね」によって引き起こされています。具体的には「頬杖をつく」、「うつぶせで寝る」、「歯が欠損しているのに治療をせずに放置する」、「硬いものをよく食べる」、「歯ぎしりや食いしばりをする」、「片側の歯ばかりで噛む」などの習慣が挙げられます。そうした癖が知らず知らずのうちに顎にダメージを与え、悪影響が蓄積された結果、顎関節症になってしまうのです。そのほかに、「精神的なストレス」や「生まれつき顎関節が弱いといった構造的な問題」も顎関節症の原因になり得ます。
顎関節症はどのように治療する?
編集部:
顎関節症は、どのように治療するのですか?
北村先生:
顎関節症の原因がどこにあるかによって、治療法が変わってきます。筋肉に異常がある場合は、上下の歯を噛み合わせたときに働く「咬筋(こうきん)に炎症が起きている可能性が考えられるため、だいたい2週間は口をあまり開けずに過ごしてもらい、痛み止めを服用します。そして、痛みが取れたら、口を開ける訓練を始めます。
編集部:
そのほかのタイプは、どのように治療をおこなうのですか?
北村先生:
軟骨・関節に異常がある場合は、軟骨・関節がロックしているために口が開けづらくなっていると考えられます。そのため、「マニピュレーション(手技療法)」によって軟骨のロックをはずし、ズレてしまった関節を正しい位置に戻します。このように、その人の状態に応じた治療法を講じていきます。
編集部:
そのほかには、どのような治療がおこなわれるのですか?
北村先生:
マウスピースを使用して、上下の歯がしっかり噛み合うように調整する「スプリント療法」をおこなうこともあります。顎の関節を正しい位置に調整して、関節部の安静を保ち、噛み締めの力を緩和するのが目的です。
編集部:
様々な治療法があるのですね。
北村先生:
そうですね。さらに、口を大きく開けるためのストレッチ、いわゆる「開口訓練」をおこなうこともあります。上述した治療法を組み合わせながら、痛みをなくしたり、口の開けづらさを解消したりして改善を目指していきます。もちろん、これらの治療に加えて、顎に負担をかける生活習慣を正すことも必要です。頬杖やうつぶせ寝、食いしばりなど、先ほど挙げた癖を意識していきましょう。
編集部:
顎関節症は、どのような年代に多いのですか?
北村先生:
近年、若年層で顎関節症になる人が増えています。スマホやパソコンを長時間使うことで顎を突き出した姿勢になる時間が長く、顎関節の周辺に負担がかかるのが要因だと考えられています。
編集部:
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
北村先生:
顎関節症を放置すると、口が開かなくなるなどの日常生活に支障をきたします。「口が開けづらい」、「口を開けるとカクカク音がする」などの症状に覚えがあれば、歯科医師に相談していただきたいです。その際、顎関節症に対応している歯科医院や日本顎関節症学会の資格を持っている医師が在籍している医院に受診するのがポイントです。もしくは、口腔外科を専門とする歯科医師に相談するのもおすすめできます。
編集部まとめ
六町もやい歯科口腔外科(東京都足立区)
つい、見逃しがちな顎の異常ですが、放置していると様々なリスクがあるとのことでした。なんらかの異常があれば、必ず歯科医院に受診してください。また、「頬杖をつく」、「うつぶせで寝る」など、知らないうちに繰り返している習慣が顎にダメージを与え続けて、やがて顎関節症を引き起こしてしまいます。まずは、自分の生活習慣を改めて振り返ることからはじめてみてはいかがでしょうか。
【この記事の監修歯科医師】
北村 智久 先生(六町もやい歯科口腔外科 院長)
北村 智久 先生(六町もやい歯科口腔外科 院長)
東京医科歯科大学歯学部卒業。埼玉医科大学大学院医学研究科修了。埼玉医科大学病院歯科・口腔外科助教、複数の歯科医院勤務などを経て、2021年、東京都足立区に「六町もやい歯科口腔外科」を開院。支え合い、助け合いながら医療機関としての責務を果たしていきたいという願いを込めて、助け合いを意味する「もやい」を医院に名付ける。日本有病者歯科医療学会専門医、日本口腔外科学会認定医、日本顎関節学会認定医。丸木記念福祉メディカルセンター非常勤歯科医師、東京医科歯科大学 顎顔面外科学分野非常勤講師。
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