歯周病をコントロールする「歯周組織再生療法」とはどんな治療なのか
近年「歯周病」が、がん、認知症、糖尿病、高血圧、心臓血管疾患、脳血管疾患、さまざまな感染症といった全身疾患に大きく関わっていることが明らかになっている。歯のクリーニング=メンテナンスで歯石を取り除くなどで予防に努めていても日々の歯磨きが不十分で歯周病にかかってしまう人も少なくない。その場合、どのような治療が行われるのか。小林歯科医院院長の小林友貴氏に詳しく聞いた。
歯周病は、口腔内に常在している歯周病菌によって引き起こされる疾患で、進行すると歯肉が炎症を起こして腫れたり、出血しやすくなる。放置していると歯と歯肉の境目の歯周ポケットが深くなっていき、歯を支えている歯槽骨が溶けて歯がぐらつき、最後は抜け落ちてしまう。
「歯周病は、病態に応じて大きく『軽度』『中等度』『重度』の3段階に分けられ、歯周ポケットの深さ、歯の揺れ具合、レントゲン検査で骨吸収(歯槽骨の溶解)の度合いなどを見て判断します。治療はまず『歯周基本治療』を行います。正しいブラッシング指導に加え、歯の表面や歯周ポケットの中に付着している歯石とバイオフィルム(微生物の集合体)を特殊な器具で取り除く処置がそれに当たります。軽度であれば、歯周基本治療だけで改善するケースもありますが、数カ月後に再評価して改善が見られず、中等度以上に悪化してしまうと、それ以上進行させないための治療が必要です」
■溶けた歯槽骨を再生する
歯周病の悪化によって骨吸収が進み、歯槽骨の一部が垂直に欠損している場合、歯槽骨を再生する「歯周組織再生療法」が検討される。かつては、歯周ポケット部分の歯槽骨を削って平らにすることで歯周ポケットをなくす外科治療が行われていたが、近年は削らずに改善を促す再生療法が主流になりつつあるという。
「歯周病は歯周ポケットができている状態が問題で、深い歯周ポケットがあると悪化していきます。代表的な歯周病菌は酸素を嫌い、血液中の鉄分を栄養にしています。そのため、深い歯周ポケットの奥にどんどん入り込んで炎症を起こし、出血によってさらに活発になるのです。口腔内の歯周病菌をゼロにすることはできません。歯周組織再生療法は、溶けてしまった歯槽骨を再生することで歯周ポケットをなくし、歯周病をきちんとコントロールするための治療といえます」
歯周組織再生療法は、歯肉に炎症があったり歯根が汚染されているとうまくいかない。なので、まずは歯周基本治療で歯肉の状態を改善する。
「そのうえで、歯茎を切開して歯槽骨から歯茎を剥離し、不良肉芽組織や歯根の表面に付着している歯石やバイオフィルムを取り除きます。それから、線維芽細胞の増殖因子を主成分とする『エムドゲイン』や『リグロス』といった薬剤を歯根に塗り、歯周組織の再生を促すのです。歯槽骨の欠損が多い場合は、薬剤に加えて骨の成分などから作られた材料を充填したり、人工膜をかぶせるケースもあります。そうした処置を行ってから、歯茎を元の位置に縫合し、およそ10日前後で抜糸します。歯周組織再生療法では縫合も重要なポイントです。しっかりと正確に縫合しないと、口腔内の細菌などが傷口からどんどん侵入して、再生を妨げてしまいます。そのため、歯科医には切開と縫合の技術が求められます」
この治療によって、一般的におよそ半年後には歯槽骨が再生する。1本だけでなくほかにも垂直性の骨欠損が進んでいる歯があれば、歯周組織再生療法を同時進行で行うという。再生を促した後のレントゲン検査と歯周ポケット計測の結果によっては、再び歯茎を切開して再生の状態を確認し、薬剤や材料を補充するケースもある。
「歯槽骨が再生して歯周ポケットの状態が改善しても、普段の歯磨きが不十分だと再び歯周病になってしまいます。ですから、歯周病治療では何よりも正しいブラッシング指導を重視しています」
歯周病は予防も治療後も、やはり日頃の口腔ケアが重要なのだ。