「自分の顔が自分の顔じゃなくなってしまう感じが残った」ジャスティン・ビーバーも罹患した“ラムゼイ・ハント症候群”、発症のピークは20代と50代に

「自分の顔が自分の顔じゃなくなってしまう感じが残った」ジャスティン・ビーバーも罹患した“ラムゼイ・ハント症候群”、発症のピークは20代と50代に

 

 

 「見て分かるように、こちらの目は瞬きができない。こちら側では笑顔を作ることができない、こちらの鼻の穴は動かない」。カナダの人気歌手のジャスティン・ビーバーさん(28)が10日、ウイルスが顔面神経に入ることにより起きる「ラムゼイ・ハント症候群」を発症、活動休止することをInstagramを通じて明らかにした。

 

【映像】佐橋准教授、野島さんの経験談

 

佐橋准教授

 

 日本で顔面神経麻痺を発症するのは年間に約6万5000人、人口10万人あたり約50人の頻度だ。ビーバーさんと同じく28歳で左半分が麻痺した経験をTwitterに綴った東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授は「目はどんどん乾いていくし、食べ物は食べづらい。顔の機能というのは、こんなに大事なのかと思った」と振り返る。

 

 「(治癒後)他人に“変わっていない”と言われても、自分の顔については自分が一番よく分かっている。自分の顔が自分の顔じゃなくなっているという、複雑な気持ち、分かってもらえないという気持ちがあるし、孤独感を覚える人もいると思う」。

 

 税理士の野島由美子さんも、3年前に顔面麻痺を患った。

 

野島さん

 

 「麻痺になる前日まで、自覚症状のようなものは全くなく、本当に突然という感じだった。まず、耳が痛くなった。うがいをすると、歯医者で麻酔をかけられた時のように口の端から水がピューッと出た。そのうちに、息子に“顔がおかしいよ”と言われた。ジャスティンさんと同様に、右半分がズルっと落ちる感じになってきて、目も閉じないし、鼻も固まっちゃったので、病院に行くことにした。ただ、知識がなく何科に行っていいのかが分からず困った」。

 

野島さんのケース

 

 翌日、かかりつけの内科では“原因がよく分からない”と言われ、抗生物質をもらって帰ってきたという野島さん。改めて耳鼻科に行くと“顔面神経麻痺”と診断され、9日間にわたってステロイドの点滴治療を受ける。ただ、原因を突き止めることはできなかったという。

 

 「思い当たることがあるとすれば、仕事を詰め過ぎたことだ。税理士なので2~3月は繁忙期だが、3月下旬に旅行を予定していたこともあって、“とにかく仕事を終わらせなきゃいけない”と休みも取らなかったので、ストレスが溜まっていたのかなと思う。いつ治る?そして元通りになるの?と、不安で辛かった。人と会う仕事をしているので、 仕事を辞めなきゃいけないのかな、というところまで追い込まれた。家族のサポートと、最終的にたどり着いた大学病院の先生が“大丈夫です。治りますよ”とおっしゃってくださったのが助けになった」。

 

 

 野島さんは3カ月ほどでほぼ治癒したというが、やはり佐橋准教授のように“自分の顔じゃなくなった”という感覚は残った。「顔の半分がズルっと下がってしまっているような状況から、なんとなく自分の中では納得できる顔に戻ってきた。もう、それでよし、という感じになっている。少しでも皆さんのお役に立てればと、私の経験やリハビリ方法などをブログ( https://nojima-tax.com/informations/post-1272/ )に書いているので、お困りの方には読んでいただければと思う」。

 

■「できれば3日以内に治療を受けるのが望ましい」

村上医師

 

 名古屋市立大学特任教授の村上信五医師は説明する。

 

 「中耳炎から起こる麻痺は細菌性が多く、ラムゼイ・ハント症候群や、それよりも4倍ほど罹る人の多いベル麻痺はウイルス性なので抗生物質が効かず、抗ウイルス薬を使うことになる。ラムゼイ・ハント症候群に関しては水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘帯状疱疹ウイルスが原因だ。

 

発症の原因は?

 

 逆に言えば、水ぼうそうは98%の方が子どものうちに罹るし、近年ではワクチンを打つようにもなっているので、ほとんどの場合、罹らないか、症状が出ない。ただしストレスが溜まっていたり、疲れがあったりして免疫が低下、あるいは歯を抜いた際の刺激が伝わったりすることで、稀に脊椎や脳の顔面神経の細胞に潜んでいた(潜伏感染していた)ウイルスが出てくることで、ラムゼイ・ハント症候群が起こる。

 

ビーバーさんのケース

 

 顔の麻痺だけの場合はベル麻痺であることが多く、顔面の片方だけの麻痺、帯状疱疹、難聴、目眩がする場合はラムゼイ・ハント症候群であることが多い。これは免疫が落ちてくる20代が最初のピークで、再び免疫が下がってくる50歳以降に2回目のピークが来るのが特徴だ。高齢の患者などの中には多発生の神経炎を起こし、嚥下や声帯に関わる神経に障害が起きる方も100人のうち数人はいる」。

 

 症状に気がついた場合、早期の治療が回復にも繋がりやすいようだ。

 

 「残念ながら麻痺を予測する方法はないが、やはり耳がものすごく痛いとか聞こえが少しおかしいとか、時々ふらつくとか、そういう症状が出た場合、“ひょっとしたら”と思っていただきたい。顔面麻痺が起きるという意味では、脳梗塞とも似ているが、こちらの場合は呂律が回らなくなるとか手足が痺れるといった、他の症状も出るので分かりやすい。

 

 また、基本的に安静が大切だが、それ以上に発症後すぐ適切な抗ウイルス薬やステロイドを内服、あるいは点滴することだ。できれば3日以内が望ましい。もちろん症状が軽いかどうか、治療の効果次第だが、ラムゼイ・ハント症候群の場合、3割は後遺症が残るが、7割は治る。加えて、ラムゼイ・ハント症候群の場合、一度罹ると免疫ができ、それが20~30年はもつので、再発することはほとんどない。ただしがん患者や免疫抑制剤を使用中の患者は再発する可能性もある。私も耳鼻咽喉科だが、日本顔面神経学会の会員の70%は耳鼻咽喉科医なので、顔面神経麻痺をご存じない先生はいないと思う」。(『ABEMA Prime』より)