政府が「国民皆歯科健診」の導入を検討
経済財政運営の指針となる「骨太の方針」に「国民皆歯科健診」についての記述が盛り込まれました。このニュースについて柴原先生にお話を伺います。
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骨太の方針に盛り込まれた内容とは?
編集部:
国民皆歯科健診など政府が出した骨太の方針に盛り込まれた歯科関連の内容について教えてください。
柴原先生:
2022年6月7日に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」の第4章「中長期の経済財政運営」の2項目に「持続可能な社会保障制度の構築」があります。
この項目には「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」というトピックがあり、ここの一部に「障害を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討」という文言が盛り込まれています。
このほか、歯科関連で盛り込まれたのは、「全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供」「オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実」「歯科医療職間・医科歯科連携をはじめとする歯科領域におけるICTの活用を促進し、歯科保健医療提供体制の構築と強化」「市場価格に左右されない歯科用材料の導入推進」といった内容があります。
国民皆歯科健診の重要性とは?
編集部:
国民皆歯科健診の重要性について教えてください。
柴原先生:
現在、日本では高校生まで歯科健診が義務付けられていますが、大学生や社会人は対象となっておらず、自治体や企業などによって健診の在り方が異なります。自治体の健診を担当している歯科医は「日本では歯科の受診率が非常に低く、痛くなったら歯医者を受診するという人が多い。義務化にしたところで何人来るのか未知数だ。」と話していました。
実施にあたっては、歯科衛生士などの専門職の人材確保や歯科医師が偏在して地方で不足している問題をクリアしなければなりません。また、健診を受けることで身体にどのようなメリットがあるのか、口腔が健康に与える影響などを一般の人により理解を深めてもらうことも重要になるでしょう。
全身の健康のために口腔ケアが重要な理由とは?
編集部:
全身の健康のために口腔ケアが重要になる理由について教えてください。
柴原先生:
1999年、口腔ケアによって誤嚥性肺炎を防止する論文が医学雑誌「The Lancet」に掲載されてから、「歯周病原菌が多くの全身疾患(糖尿病、心内膜炎、アルツハイマー症など)の元凶になること」「口腔衛生管理がフレイル(虚弱)防止と健康寿命の延伸につながること」などが解明されてきました。
そして、厚生労働省が推進している超高齢社会での地域包括ケアにおける歯科の役割も注目されてきています。口の健康が全身の健康に大きく寄与し、その結果、平均寿命と健康寿命の差を縮め医療費の減少をもたらすことにもなります。
まとめ
経済財政運営の指針となる「骨太の方針」に「国民皆歯科健診」についての記述が盛り込まれたことが今回のニュースでわかりました。歯周病を放置することで心臓病や糖尿病に影響するなど、全身の病気との関連が指摘されているだけに、注目を集めそうです。
柴原 孝彦 先生(東京歯科大学名誉教授)
【この記事の監修歯科医師】
柴原 孝彦 先生(東京歯科大学名誉教授)
1979年東京歯科大学卒業、2004年東京歯科大学主任教授、2012年東京歯科大学市川総合病院口腔がんセンター長、2020年東京歯科大学名誉教授。
著書は「口腔顎顔面外科学(医歯薬出版)」「標準口腔外科学(医学書院)」「カラーアトラス コンサイス口腔外科学(学建書院)」「口腔がん検診 どうするの、どう診るの(クインテッセンス出版)」「衛生士のための看護学大意(医歯薬出版)」「かかりつけ歯科医からはじめる口腔がん検診step1/2/3(医歯薬出版)」「エナメル上皮腫の診療ガイドライン(学術社)」「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ(クインテッセンス出版)」「知っておきたい舌がん(扶桑社)」「口腔がんについて患者さんに説明するときに使える本(医歯薬出版)」など。
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