高齢者は「市販の風邪薬・頭痛薬」に要注意、全米トップ病院の医師が語る盲点

高齢者は「市販の風邪薬・頭痛薬」に要注意、全米トップ病院の医師が語る盲点

 

 

 超高齢化社会を迎える日本でも、高齢者を専門とする老年医学や高齢者医療に注目が集まっている。人生100年時代に備えた人々の意識も「ただ長生きする」から「いかに健康寿命を延ばすか」にシフトしたのではないか。ニューヨークにある大学病院で米国内科専門医・老年医学専門医を務める山田悠史氏は著書『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』の中に、“健康な老後につながる指針”をふんだんに詰め込んだ。山田医師によると、高齢者はたとえ市販薬であっても「リスクの高い薬」があるという。インタビューで詳しく教えてもらった。(取材・文/金澤英恵)

 

● 風邪薬の定番「総合感冒薬」で気をつけたいこと

 

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part1『「高齢者の診察では靴下を脱がす」全米トップ病院の医師が語る意外な理由』

 ――高齢者の方は持病などで処方薬を飲んでいる方も多いと思います。先生は「高齢者と薬」についてどうお考えですか?

 

 山田悠史医師(以下、山田) もちろん、特定の症状を治療・緩和するために医師から処方される薬は飲んでいただいて問題ないと考えます。ただ、意外とリスクが軽視されがちなのが市販薬なんです。

 

 風邪の引き始めは「とりあえずこれを飲んでおけばOK」といった安心感のある「総合感冒薬」は、せき止め・鼻水止め・痛みの緩和と、主に3つの働きをする成分が配合されています。でも、風邪の症状が「のどの痛み」だけだった場合はどうでしょう。せき・鼻水の症状はないので、せき止め・鼻水止めの成分は不要ですよね。総合感冒薬は、風邪の総合的な症状が出ている場合には向いていますが、一方で「症状がなくても、すべての成分をまとめて摂らざるを得ない」点が難しいところなんです。

 

 ――総合感冒薬は「オールインワン」の安心感もあり、常備薬にしている家庭も多いのではないでしょうか。高齢者にはどんなリスクがあるのでしょう?

 

 山田 例えば、鼻水止めの代表は「花粉症」の薬ですが、総合感冒薬でよく使用される「第一世代」と呼ばれる抗アレルギー薬は、現在広く使われている花粉症の薬よりも「眠気やだるさが出やすい」と言われています。高齢者の場合、車の運転前の服用は避けるべきでしょう。また、ただの歩行であっても眠気によって転倒リスクが高まる可能性があります。

 

 さらに総合感冒薬に含まれる抗アレルギー薬の副作用は、抗コリン作用といって尿を出にくくするケースも。元々尿が出にくい前立腺肥大症の高齢男性では、症状を悪化させてしまい、腹痛を起こして救急搬送されることも珍しくありません。

 

 

● 「若い頃から飲んでるから」といって安全とは限らない

 

 ――総合感冒薬で救急搬送なんて、本人も「まさか」と思うでしょうね。

 

 山田 安静に寝ていれば治ったはずなのに、余分な成分を摂ってしまったせいで救急搬送される。そんな患者さんを何人も見ているので、総合感冒薬の副作用は決して無視できないんです。のどの痛みだけならアセトアミノフェン(カロナールなど)の鎮痛薬、鼻水だけなら眠気も出にくく副作用も少ない点鼻薬など、高齢者の方は「現れている症状にピンポイントで効く薬」を使用するのが基本になりますね。

 

 日本の市販薬は販売までの審査が非常に厳格なので、総合的に安全性は高いといえます。しかしながら、市販薬でもそうしたリスクをはらむことを、高齢者とそのご家族は覚えておいた方がいいでしょう。

 

 ――例えばですが、高齢の方が市販薬で対処したいと考える場合、薬局で薬剤師さんに相談するなどした方がいいのでしょうか?

 

 山田 ぜひ相談された方がいいと思います。薬剤師さんは薬のプロフェッショナルですから、総合感冒薬のリスクや、薬剤が影響し合う“相互作用”がないかなど、色々と教えてくださると思います。また、高齢者の方は風邪薬に限らず、頭痛薬なども注意が必要です。こちらも薬剤師さんに相談して購入されることをおすすめしますね。

 

 ――頭痛薬も注意したほうがいい、というのはどういった理由からですか?

 

 山田 頭痛薬に使用されるイブプロフェンやロキソプロフェンなどは、NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる分類になります。NSAIDsの鎮痛剤は高齢者で腎臓に障害がある場合、腎臓のさらなる機能悪化を招いてしまう可能性がある。さらに消化管出血や胃潰瘍のリスクもあります(※)。

 

 慢性的な痛みへの対処法として、イブプロフェンやロキソプロフェンを「若い頃から常用している」方も多くいらっしゃいますが、安全だったはずの成分も、年齢を重ねた身体には害になる場合があるのです。ですので、高齢者への解熱鎮痛薬は、NSAIDsには分類されないアセトアミノフェンを処方することが多いですね。

 

 ちなみに、総合感冒薬は先ほどお伝えした抗アレルギー薬に、このNSAIDsに分類される鎮痛成分を混合したものが多いため、高齢者はなおさら「避けた方がいい」ものが多いと言えるのです。

 

 

● 不安に思ったら「薬のプロ」に聞いてみよう

 

 ――病院の処方箋と比べて、市販薬は「効き目が弱い」イメージがありましたが、甘く見ない方がいいということですね。

 

 山田  市販薬は病院で処方されるものに比べると、成分量は「少なめ」に設定されているものがほとんど。その点では「効き目が弱い」と感じるのは間違っていないと思います。ただ、成分量は少なめでも、高齢者は総合感冒薬、頭痛薬の成分そのものが副作用を引き起こすケースがあるため、市販薬でも十分注意していただきたいということですね。

 

 ――ちなみに、薬と一緒に飲む時に「気をつけたほうがいい飲み物」はありますか?

 

 山田 薬を炭酸ジュースで飲んだからといって大変なことになるかといえば、そのリスクは低いといえます。ただ、飲み物によって薬の濃度を上げてしまったり、逆に下げてしまったりすることはありますね。

 

 細かい組み合わせは色々とあるのですが、薬を飲む時は主に「グレープフルーツジュース」と「コーヒーなどのカフェインを含む飲料」を避けていただくのが良いと思います。自分が飲んでいる薬との飲み合わせが気になる人は、これも薬剤師さんに聞くと教えてくださるかと思います。とはいえ、よほどの事情がないのであれば、お水が一番安全ですね。

 

 ――薬剤師さんとの接点といえば「処方箋の受け渡し」の時くらいでした。その時も「はい、わかりました」で終わっていたので、気になることは色々お聞きしてみてもいいんですね。

 

 山田 診察の時って、医師が忙しそうだからと患者さんが質問を遠慮してしまうケースもありますよね。そんな時は処方箋をもらう際に、薬剤師さんに薬のことを尋ねてみてもいいと思います。そのやりとりの中で薬剤師さんが「おや?」と思うことがあれば、「疑義照会」といって病院の処方医に電話で確認してくださる仕組みもあります。お薬で何か不安に感じることがあるようなら、ぜひ「お薬のプロ」に聞いてみるといいのではないでしょうか。

 

<参考文献>

※By the 2019 American Geriatrics Society Beers Criteria® Update Expert Panel. American Geriatrics Society 2019 Updated AGS Beers Criteria® for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults. J Am Geriatr Soc 2019; 67: 674-94.

 

山田悠史