「50年痛みを我慢した・・・」91歳女性と息子の憤り イタイイタイ病7年ぶりの患者認定 富山

「50年痛みを我慢した・・・」91歳女性と息子の憤り イタイイタイ病7年ぶりの患者認定 富山

 

 

富山市の91歳の女性が8月、イタイイタイ病の患者として認定されました。新たな患者認定は7年ぶりです。女性は50年にわたり、痛みを我慢しながらもイタイイタイ病だと気づいていませんでした。女性の息子や医師は、より多くの人を救済できる制度にしていくべきだと訴えています。

 

息子:

「土地とか水とかはきれいになるかもしれないけど、人間の体というのはもと通りにはならんのですよ。だからそこをもう1つ踏み込んで、今まで泣きながら死んでいった人のことを思うと、もう1歩踏み込めなかったのかなというのが現実」

 

こう話すのは、イタイイタイ病に認定された女性の息子です。女性と2人で暮らしています。

 

息子:

「(母親は)昔の痛さがずっと体に染み付いているから。こんなもんかなと。我慢すれば治ると」

 

女性:

「日が経てば治っていく…」

 

ずっと痛みを我慢していたという女性。去年、息子が初めて精密検査を受けさせ、ことし8月、91歳にしてイタイイタイ病と認定されました。

 

女性:

「ばあはんのために気の毒だったちゃ…」

「神様に、イタイイタイ病に入るようにお願いしますと、3回言って手を合わせていた。晩寝られなくて」

 

神通川流域で発生したイタイイタイ病。原因は上流にあった三井金属鉱業・神岡鉱山から出されたカドミウムです。

 

川の水を飲み水や生活に使っていた住民たちの多くが、重い腎臓障害を患い骨がもろくなって骨折を繰り返すという苦しみの中で死んでいきました。

 

被害住民らは三井金属の責任を追及する裁判を起こし、控訴審を経て50年前の8月、全国の公害病訴訟として初めての全面勝訴。患者に治療費などを賠償する誓約がかわされました。

 

女性が生まれたのは1930年、神通川流域の農家でした。若い頃から農作業や飲み水など、ほとんどに川の水を使う生活。

 

45歳ごろから脚などに痛みを感じ始めましたが、自分がイタイイタイ病だとは考えませんでした

 

女性:

「痛いけど、田んぼばっかりしていたろう、農家で。そんなもの寝て起きれば治るわと、我慢ばっかりしていた

 

息子:

「転んで骨盤骨折したときも自分で歩いてくるから。ひきずりながら。足ぶらんぶらんしているんだよ。そこまで我慢して、ずっと生活しているのはちょっと異常…」

 

記者:

「どこらへんが痛いんですか」

 

女性:

「やっぱり脚を曲げたり伸ばしたりするとき、この筋というもんかね、突っ張って痛いような感じがする」「気休めかね。これ(湿布)貼っていればそんなに痛くないから、毎日貼っている」

 

去年、同居するようになった息子がイタイイタイ病を疑い、初めて専門医のいる病院を受診させました。

 

女性はこれまで富山県が神通川流域の住民を対象に行う健康調査も受けていて、精密検査を求める結果が出ていましたが確認せずに放置していたといいます。

 

診察:

「おはようございます」

「左のここの痛みはどうですか」

 

女性:

「まだ少し痛いね。前からみれば痛み少しとれてきたけど湿布薬はっている」

 

イタイイタイ病研究の第一人者である青島恵子医師は、すぐに女性の症状をイタイイタイ病だと見抜きました。

 

イタイイタイ病研究の第一人者 青島恵子 医師:

「典型的なイタイイタイ病でしたよね。経過からいっても」

 

女性はまもなく認定手前の「要観察者」とされ、ことし1月、息子が認定を求めて県に申請。患者として認められました。

 

青島恵子 医師:

「ああ、ようやく本当の意味で救済できたなってすごくうれしかったですね。以前はもっと厳しかったですよね、骨所見の判定とかが。だから一瞬危惧はしてましたね。骨生検しないと認められないかもしれないなと」

 

県の患者認定制度は1967年に始まりました。認定の要となってきたのが、骨生検です。腰の骨を削り取って調べるため体に負担がかかる一方、認定に必要な骨軟化症の症状をはっきりと示すことができます。骨生検で症状を証明しなければ、認定されないことも多かったのです。

 

手続きに行った女性の息子も、県の職員から「骨生検をしない人はほとんど認定されていない」と説明を受けたといいます。

 

息子:

「(県の職員から)骨生検をしないと認定されないのが圧倒的に(多い)といわれたから。この医療の発達した現在の医者が、昔50年前と全く同じことをやっているのはおかしいんじゃないのと」

 

女性:

「そんな痛い目にあうのイヤわ、この歳になってから。どうせそんなことしたら、動けなくなって病院生活になるからと思って嫌だった。家にはいられないと思って」

 

体への負担を考え、女性は骨生検を受けませんでした。

 

それでも、ことし7月の認定審査会。女性が7年ぶりにイタイイタイ病患者として認定されました。青島医師によると、血中のカドミウムの値や腎臓障害などから骨生検なしでも症状が認められたとみられます。

 

青島恵子 医師:

「ようやくね。でもほとんど(患者)いないときになってね。認められなくてそのまま亡くなった方っていうのは大勢いたと思いますね」

 

審査会のメンバーは原則、患者を直接診ることはありません。

 

青島恵子 医師:

「本当は診察とかしていただけると一番いいですよね。実際に診ていただければね。歩き方とか寝たきりになってるのかとか。超高齢者しかならないという現状も踏まえて。深い洞察力がいると思います」

 

裁判の勝訴からことしで50年が経ちました。被害者団体で初代代表を務めた小松義久さんは2010年に亡くなり、今は娘の雅子さんがその役目を引き継いでいます。

 

イタイイタイ病対策協議会 小松雅子 代表:

「ちょうど50年という大きな節目に、今もなお患者さんが発生するという、大変重いことだと思っています。公害が起きたこの被害地に終わりはないと言わざるを得ないんですけど、そういう中でしっかりと受け止め、課題は課題として向き合っていかなければならないと」

 

女性:

「久しぶり、何年ぶりだわここへ来たの」

「あんまり水も飲んではいけないんだったなと思う。だけど仕事したら喉渇くからつい川へ行くやろう。わからないもんでさ。こんな始末だちゃ」

 

カドミウムによる健康被害を受けた人は確認できるだけで1000人近く。それも氷山の一角を示しているにすぎません。

 

息子:

「まだまだ隠れたイタイイタイ病患者さんがいると思うから、これをみんなで救っていかないといけない」

 

チューリップテレビ