「難聴児だから仕方がない」と娘が言われることが悔しかった…「難聴」の子どもを持つお父さんがアプリを開発

「難聴児だから仕方がない」と娘が言われることが悔しかった…「難聴」の子どもを持つお父さんがアプリを開発

 

 

聴覚障害は先天性によるものや感染症によるものなど、原因は様々です。

 

新生児の約1000人に対して1人が聴覚に何らかの障害を持って生まれてきます。

 

【画像】難聴の愛娘に言葉を覚えてもらおうと開発したアプリ

 

子どもは小学校に入学するまでにおよそ3000語を覚えると言われています。言葉を覚える時期でもある乳幼児期の聴覚障害を早く認知して適切な療育を行うことが重要です。

 

なぜなら、聞こえる子ども(健聴者)は、身の回りで耳にする家族の会話やテレビ、街からあふれ出る様々な音声情報を目にするものとリンクさせながら言葉を覚えていくのに対し、難聴の子どもは単に音が聞こえにくいだけではなく、心や知識の発達にも影響すると言われているからです。

 

そうした難聴者の子どもを持つお父さん(開発者)が、子どもに効率よく、楽しく、たくさんの言葉を覚えて欲しいとの思いからアプリを開発したといいます。

 

アプリの名前は「ボキャグラフィー(Vocagraphy!)」

 

語彙(vocabulary)と写真術(photography)を合わせた造語で、難聴児が自分の周囲の世界と言葉を一致させていく過程に親子での体験をリンクさせながら世界を広げていけるとしています。

 

このアプリで国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催の「STI for SDGs」アワード優秀賞を受賞した開発者の東京工科大学・吉岡英樹講師に話を聞きました。

 

デジタル「アプリ」の有効性は?

「これまではカードや絵などを描いて教えてきた。しかし、1枚のカードだけでは伝え切れないことが多い。例えば「靴」。靴には色々な種類がある。長靴・運動靴・革靴…それを教えるとき、また「ドアを開ける」「ドアを閉める」などの行為もカードでは限界がある。最近はパワーポイントなどで作成する人も多くなってきたが、何千の言葉や行為に関して個人が作るには手間と時間がかかりすぎる」

 

「『上位概念』を“はきもの”にすれば、様々な種類の履き物の画像を表示できる。これにより、1つの単語を覚えるだけでなく言葉の奥行きも広がる。紙の空間からデジタル空間に発展してきた進化形だ」

 

 

難聴児にも強みがある

「言葉を覚えるのには勉強しなくてはいけない。健聴児は、言葉を自然に覚えるが難聴児は勉強して覚えるのが普通。勉強する癖が乳幼児からつくのは強みだと思う」

 

「勉強をするという習慣に、スマホをいじりながら学べるという付加価値がついて、吸収力に拍車がかかる」

 

「デジタル」で不可能を可能にする

「アプリはひとつの手段でしかない。最終的には情報技術を世の中のためにどう使っていくのかを考えていきたい。デジタルを使うことにとり、今まで諦めていたことができるようになることを確信した。デジタルで不可能を可能にする」

 

取材を終えて

難聴は一見してはわからない障害なので健常児や周囲が障害に関する理解を深める取り組みも必要です。小児の聴覚障害領域を専門とする言語聴覚士は少なく、地域格差があるのが実情です。

 

また複数の障害を持つ場合、障害のどれかが同時に判明せずに、事実上、見落とされてしまうケースもあるといいます。

 

言語指導法には様々なアプローチの仕方があり、子どもたちの症状や取り巻く環境などが多様なだけに、どの方法が一番良いなどと決めつけることは避けなければなりません。

 

子どもが興味を持ち楽しく学べるのはどの方法なのか?子どもの可能性を信じ、最大限に伸ばしいくためにも、周囲の意見だけではなく、複数の専門医を受診し、専門家の意見を聞いて欲しいと思います。決して臆することなく、レスポンスは遅くなるかもしれませんが、手を差し伸べている人も着実に増えていると感じます。

 

【執筆:フジテレビ 解説委員 小泉陽一】

 

小泉陽一