「足元フワフワ」もめまい 近年増加、生活に支障

「足元フワフワ」もめまい 近年増加、生活に支障

 

 「めまい」と聞くと、「天井がグルグル回って立っていられない」といった激しい症状を想像されるかもしれません。実は「足元がフワフワする」など症状の弱いものまであり、原因も治療法も多様なのが現実です。「フワフワめまい」に悩まされている人は意外に多くいます。実は治療に携わっている筆者自身、この「フワフワめまい」に悩まされています。1年に数回、起床後にトイレに行く際に体がフラフラし、「あっ、めまいがまた来たな」と感じることがあります。何も対策することなく、そのまま放置していると、体がフワフワするという状態が2週間ほど続き、頭痛や吐き気にも襲われます。こうなると何にも集中することができず、生活に支障を来してしまいます。そうした人たちが今、増えているのです。

 

 そこでこの連載では、めまいとそれと深い関係を持つ耳鳴りについての原因や症状などの正確な知識と、適切な治療法や対策などを専門医の立場からアドバイスすることで、日常生活の負担を少しでも取り除き、生活の質(QOL)を高めることを目指していきます。

 

 ◇「浮動性めまい」とは

 まず、めまいの中でも近年増加していると言われている「浮動性のめまい」について紹介していきます。めまいには大きく分けて、フラフラ、フワフワする「浮動性のめまい」と、周囲がグルグル回る「回転性のめまい」があります。回転性のめまいは症状が分かりやすく、認知度も高いのですが、浮動性のめまいは逆に日常生活での不調と区別するのが難しく、患者自身も「めまいだ」と気付きにくいことが少なくありません。

 

 浮動性のめまいの病態は多岐ですが、大きく分けると両側内耳障害、脳血管障害後遺症、うつや睡眠障害、自律神経調節障害、脊椎の異常、頸椎(けいつい)変形などの五つに分かれます。

 

 ◇平衡感覚が影響

 浮動性のめまいと回転性のめまいのどちらも体の平衡感覚に大きく影響されます。この仕組みは飛行機を例に考えると分かりやすいでしょう。操縦席は脳の一部である脳幹と小脳です。脳幹は生命のコントロールセンターと呼ばれ、飲み込む、呼吸する、眠るなどの活動に関与しています。

 

 一方、小脳は体の平衡感覚、つまりバランスなどに関与しています。飛行機の両翼は、平衡感覚などをつかさどる三半規管や前庭、耳石などの内耳器官に当たります。片側の翼に異常があれば反対側の翼でバランスを保とうとします。翼だけの問題であれば、多少フラフラ揺れますが大事には至りません。しかし、操縦席の問題、すなわち脳幹、小脳となればそうはいきません。早いうちに問題が解決されないと大事に至ることもあるのです。

 

 ◇恒常的な異常と関係する

 また、胴体部分は血圧や脈拍に関与する自律神経の状態、本来緩やかに曲がっているべき頸椎が湾曲性を失う「ストレートネック」になっていないか、高脂血症や高コレステロール血症、糖尿病などによる動脈硬化があるか、睡眠は大丈夫かなど恒常的な異常と関連してくるのです。さらに風邪などのウイルス感染の有無や、日常生活で感じているストレスの程度なども影響してきます。そして、これらのどこかに慢性的な異常が生じると、フラフラしたり、フワフワしたりする症状が起きやすくなります。

 

 改めてまとめますと、片方の内耳に何らかの問題が発生すると身体がぐらつきますが、操縦席である脳がしっかりしていればすぐに持ち直すことができます。両側の内耳に異常が生じると、ぐらつきは大きくなりますが、それでも脳幹や小脳がしっかりしていれば何とか持ち直せるのです。

 

 ◇小脳機能低下でふらつき

 一方、コックピットに相当する脳幹や小脳に問題があっても、ふらつきは起きます。例えば飲み過ぎてアルコール濃度が高くなると千鳥足状態になり、ふらつきます。これは操縦席に当たる小脳の機能が低下して起きるのです。アルコールが原因のふらつきであれば時間が解決してくれますが、一時的ではない慢性的なふらつきがある場合、何かきっかけがあったのかどうかを確認しなければなりません。具体的には、立ち上がった時なのか、歩行時か、階段を下りる際か、それと常に起きているのか、といった具合です。

 

 このほか、それらの症状が出て、どの程度の時間がたつか、高血圧や低血圧、貧血、アレルギー要素の有無など、体質的な背景因子なども医師に相談した上で治療を進めていく必要があります。

 

 ◇重要な問診

川越耳科学クリニックにおける治療の流れ

 

 このため浮動性めまいの診察では、詳細な問診に加え、アンケートも十分に活用します。また、目の動き(眼振や眼運動)やバランス(重心動揺)の検査、適宜X線やCT、MRIなどの画像検査、心電図、自律神経機能検査、内耳機能検査、採血など各種行います。最も重要なのは問診になります。的確な問診がないと無用な検査だけをしたり、検査で異常がないと原因探索を見誤ったりしてしまうことになります。

 

 治療には生活習慣改善、カクテル療法(内服薬)、リハビリテーションとしての自宅で行えるめまい体操や医療機関で行う本格的な前庭リハビリ(平衡障害改善)などがあります。(了)

 

坂田英明・川越耳科学クリニック院長

 坂田英明(さかた・ひであき)

 川越耳科学クリニック院長、埼玉医科大客員教授。元目白大学教授。日本耳鼻咽喉学会専門医、日本聴覚医学会代議員。日本小児耳鼻咽喉学会評議員。

 1988年埼玉医科大卒、91年帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、2005年目白大教授、15年より現職。小児難聴や耳鳴りなどの治療に積極的に取り組み、著書多数。近著に「フワフワするめまいは食事でよくなる」(マキノ出版)。